労災保険制度の見直しについて(2026年建議)社労士がわかりやすく解説|企業が今すぐ準備すべきこと

投稿日: 2026年01月19日
キーワード: 労災保険、労災保険制度の見直し、遺族年金の男女差


2026年(令和8年)1月14日、労働政策審議会より「労災保険制度の見直しについて(建議)」が公表されました。

この建議は、就業構造の変化や働き方の多様化を踏まえ、労災保険のセーフティネットを整備する観点から精力的に議論が重ねられてきた成果です。今後、この建議に基づき法律案が作成される予定であり、企業の人事労務担当者や経営者、そして労働者の皆様にとって大きな影響があります。

この記事では、社会保険労務士の視点から、今回の建議で示された主要な見直しポイントをわかりやすく解説します。

【この記事で解説していること】
  • 労災保険の適用範囲がどのように拡大されるのか
  • 遺族年金の男女差解消とは何か
  • 消滅時効が2年から5年に延長される対象疾病
  • 特別支給金の審査請求が可能になる意味
  • 事業主への情報提供と実務への影響
  • 今後の法改正に向けて注意すべきポイント

※本記事は2026年1月時点の法改正議論や提案に基づいた内容を含みます。
 実際の制度変更は、今後の国会審議等により変更となる可能性があります。

目次

労災保険の適用範囲が拡大:より多くの人が守られる制度へ

暫定任意適用事業(農林水産業等)の廃止

これまで、従業員数が少ない農林水産業などの事業は「暫定任意適用事業」として、労災保険への加入が任意とされてきました。

今回の建議では、この暫定任意適用事業を廃止し、順次、強制適用の対象とする方針が示されています。これにより、小規模な農林水産業の事業所で働く労働者も、労災保険の保護を受けられるようになります。

【出典参考】暫定任意適用事業について│厚生労働省

家事使用人への適用

労働基準法が家事使用人(家政婦など)に適用されるようになった場合、労災保険も強制適用対象とするのが適当(対象としたほうがよい)という方針が示されました。
(※家事使用人は労働基準法が適用されていません)

これまで家事使用人は労災保険の対象外とされてきましたが、今後、労働基準法が適用されることとなった場合、労災保険も同様に適用されることになるかもしれません。

【出典参考】家事使用人に係る災害補償・労災保険適用について│厚生労働省

特別加入制度の見直し

労災保険の特別加入制度について、今後、特別加入団体の適格性を確保するための改正が検討されています。
(※個人事業主などの一部の立場の方は、特別加入団体を通じて労災保険に加入することになっています)

具体的には、特別加入団体として承認されるための要件が法令上に明記される予定です。承認要件の内容は、災害防止に関する役割や実施すべき措置、団体の組織体制、事務処理能力、財政基盤などが想定されています。

また、要件を満たさなくなった団体については、いきなり保険関係を消滅させるのではなく、まず改善を要求するなど段階的な手続きを設け、加入者への影響に配慮した対応が取られる見込みです。

さらに、現在は特別加入の対象となっていない事業や職種についても、労働基準法との関係を整理しながら、適用範囲の拡大が随時検討されることになっています。フリーランスなど新しい働き方への対応も、今後の課題として議論が続けられます。

【出典参考】労災保険への特別加入│厚生労働省


給付内容の見直し:時代に合わせた公平な基準へ

遺族(補償)等年金の男女差解消

今回の建議で特に注目されるのが、遺族(補償)等年金の男女差解消です。

これまで、遺族(補償)等年金の受給において、夫にのみ年齢制限などの支給要件が課せられていました。具体的には、妻は年齢に関係なく受給できる一方、夫は一定の年齢に達していないと受給できないという要件の違いがありました。

今回の見直しにより、夫にのみ課せられていた支給要件が撤廃され、妻と夫の支給要件の差が解消される方針です。これは、男女平等の観点から大きな前進と言えます。

【出典参考】遺族(補償)等年金について│厚生労働省

消滅時効の延長(2年から5年へ)

労災保険の給付には、請求できる期限が設けられており、2年を過ぎると時効により請求権が消滅してしまうものがあります。

しかし、脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病など、発症から原因の特定まで時間がかかる遅発性疾病については、迅速な請求が困難な場合があります。

今回の建議では、こうした遅発性疾病について、消滅時効を5年に延長する方針が示されました。これにより、過去に時効で諦めていた事案についても、救済される可能性が広がります。

【出典参考】7-5 労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか│厚生労働省

遅発性疾病の給付基礎日額の改善

離職後に遅発性疾病を発症した場合、現在は離職時の賃金を基礎として給付額が計算されます。

今回の見直しでは、発症時の賃金が、有害業務に従事していた時(ばく露時)の賃金より高い場合は、発症時の賃金を基礎とするよう改善される方針です。

これにより、労働者がより適切な補償を受けられるようになります。

【出典参考】遅発性疾病に係る労災保険給付の給付基礎日額について│厚生労働省


手続きと徴収:透明性の向上と事業主への配慮

社会復帰促進等事業の不服申立て制度の整備

労災保険の社会復帰促進等事業として実施されている給付について、今後、不服申立ての仕組みが整備される見込みです。

現在、社会復帰促進等事業による給付(特別支給金を含む)は、労審法の審査請求の対象となっていません。今回の見直しでは、これらの給付についても処分性を認め、正式に審査請求や取消訴訟ができるようになる予定です。

また、不服申立ての手続きについても、通常の労災保険給付と同様に、労働保険審査官および労働保険審査会による審査の対象とすることが検討されています。

制度が見直されることで、特別支給金などの給付が不支給となった場合でも、労働者は適切な救済手続きを利用できるようになり、権利保護がより充実することが期待されます。

事業主への情報提供

労災事故が発生した際、事業主が早期に災害防止対策を講じられるよう、新たな情報提供の仕組みが検討されています。

具体的には、労災保険給付の支給決定(または不支給決定)が行われた際、その情報を事業主に通知する制度です。ただし、通知されるのは同一の労災事故に対する各給付種別(療養給付、休業給付など)の初回の決定時のみとなる予定です。

この情報提供を受けられるのは、労働保険の年度更新手続きを電子申請で行っている事業主に限定される予定です。電子申請による年度更新手続きを行うことで、こうした労災情報の迅速な把握というメリットも得られることになります。

メリット制の検証

労災保険のメリット制(労災発生状況に応じて保険料率が増減する制度)について、災害防止効果の検証が行われるとともに、不当な「労災かくし」に繋がらないよう実態把握が進められます。

メリット制が本来の目的である災害防止に効果的に機能しているか、継続的に検証される見込みです。

【出典参考】メリット制について│厚生労働省


今後の実務で注意すべきこと

強制適用拡大への準備

暫定任意適用事業の廃止が決まれば、これまで労災保険に馴染みのなかった小規模事業主も、労災保険の加入手続きや保険料の納付が必要になります。

対象となる事業主は、早めに準備を進めることが望まれます。具体的な手続きや保険料率については、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士にご相談ください。

時効延長による過去事案の確認

消滅時効が5年に延びることで、過去に時効で諦めていた事案が救済される可能性があります。

脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病などで労災請求を検討していた方は、時効延長の施行後、改めて請求を検討する価値があります。従業員や元従業員から相談があった場合は、適切に対応することが重要です。

遺族年金の見直しへの対応

遺族年金の男女差解消により、これまで受給できなかった男性の遺族が受給対象となる可能性があります。

該当する可能性のある方には、制度改正の情報を適切に周知することが大切です。


まとめ

今回の労働政策審議会の建議は、多様な働き方に対応し、給付の公平性を高める大きな一歩です。

適用範囲の拡大により、これまで保護されていなかった労働者が労災保険の対象となり、給付内容の見直しにより、より公平で適切な補償が受けられるようになるかもしれません。

今後、この建議に基づき法律案が作成され、国会での審議を経て施行される可能性があります。企業の人事労務担当者や経営者の皆様は、法改正の動向を注視し、適切な対応を進めることが求められます。


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栃木県宇都宮市の社労士事務所ミアータでは、「お客様の”迷う時間”を少しでも減らしたい」という想いを持ち、労災保険の手続き・就業規則の作成・給与計算・助成金申請など、社会保険や労務管理の課題に幅広く対応しています。

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    この記事を書いた人

    社労士事務所ミアータ
    代表
    社会保険労務士
    加藤雅史

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